論文紹介のやり方 ~How to introduce research papers~
今回は卒論生~M1向けの記事です。
Mainly for bachelor's and M1 students.
研究室のメンバーが定期的に集まって、論文を紹介しあう。
論文セミナーとかジャーナルクラブとかの呼び名で、多くの研究室でやられていることだと思います。本研究室でも、Lab meetingと言ってほぼ毎週おこなっています(参考:今学期のLab meetingスケジュール)。
We introduce research papers to other lab members in Lab meeting. This article is about "how to introduce research papers".
有意義で快適な"論文紹介"のために…
学部生やM1にとって、論文紹介は地獄のような時間かもしれません。ぶっちゃけ僕がM1の頃はそう感じてました…。
というのも自分が論文紹介をする時は、
- (自分で選んだくせに)論文が理解できてない
- 先生からの鋭い突っ込みに答えられない
- 英語がうまく話せない
- 「誰も自分の紹介論文に興味なさそう」という被害妄想が生まれる
- または本当に論文の選択が悪い
- そもそもどういう論文を紹介すべきか分かってない
、、、などなど暗澹たる状況でした。
そして他人の発表を聞く時は
- 壊滅的に内容が分からない
- もはや何が分からないのかすら分からない
- ていうか発表者と自分との研究内容違いすぎ…
- 笑われそうで質問もできない
- ただただ時間が過ぎるのを耐え忍ぶのみ
、、、という状態でした。
しかしここ2~3年でようやく地獄から天国になった、かどうかは分かりませんが、とにかく結構楽しめるようになってきました。
楽しめるようになった最大の理由は、先に身も蓋もないことを言うと、読んだ論文数とか発表回数とか、量をこなしたことだと思います。とは言え「お前らもあと2~3年経てば俺のところまで来れるぜww」ではあまりにもアレなので、今回は論文紹介を有意義かつ快適に過ごすためのコツ?を僕なりに紹介したいと思います。
注:以下に書いてある内容は研究室の公式見解ではなく、日置の私見です。ご指摘・お叱り・賛辞等は私個人までお願いします。
目次
1. そもそもなぜ論文紹介をするのか?
2. どういう論文を選ぶべき? How to choose a paper?
3. どうやって準備をすべき? How to prepare?
4. どのように発表を聞くべき? How to listen a presentation?
5. リンク
1. そもそもなぜ論文紹介をするのか?
なぜ読んだ論文の紹介をしあうのか、という疑問の上には「なぜ論文を読むのか」、さらには「なぜ研究をするのか」という問題が構えていると思います。けれどここで僕のようなものがドヤ顔でだいそれたことを語っても説得力皆無なので、華麗にスルーさせてもらいます。
ということで「読んだ論文をどうして人に紹介しなきゃいけないのか」というもっと気軽な問題をここでは取り上げます。
論文紹介する理由、というか論文紹介で得られるメリットは
- 人に説明することで自分の頭が整理される
- 定期的に論文紹介の当番が回ってくることで、定期的に論文を読まざるをえなくなる
- 先生や先輩が論文を批判する視点を盗める
- 聞いた人からの指摘によって自分の認識間違いや知識不足が改善される
- 発表(and 質問)の練習ができる
あたりでしょうか。似たような話はこのブログの過去記事にも書かれてますね。
まあしかし、論文紹介をおこなっている最大の理由は「研究室のメンバーで定期的に集まろうぜ」かもしれません。そしてせっかく集まるので、論文紹介という形で有意義に過ごそうという感じでしょうか。
2. どういう論文を選ぶべき?
論文の選択法
ここがうまくいけば、論文紹介の準備の7割はできたと思っても良いのではないでしょうか。実際、上の方に書いた論文紹介地獄の原因の多くは、論文の選択に関係していますよね。それくらい「どの論文を選ぶか」は重要だと思います。
とはいえ選び方は単純に、これまで読んだ論文の中で自分にとって一番面白いもの・自身の研究と関連の深いものを取り上げるという方法で良いと思います。少なくとも僕はそうしています。
卒論生にとっては、卒業論文における「既存の知見」の中心となる論文というイメージでしょうか。例えば卒論が『先行研究で◇◇が明らかになったため、〇〇が予想される。なので卒論では△△という方法で〇〇を検証する』というストーリーならば、その「◇◇を明らかにした」先行研究を紹介すれば良いでしょう。場合によっては「△△」という手法が新しいこともあるので、該当の論文を紹介すれば良いかもしれません。
とにかく、せっかく研究室メンバーの前で発表する機会なので、自身の研究にとって実りのある論文を選択してもらえればと思います。
ダメな例
間違ってもやってはいけないのは「論文紹介のためにあわてて論文を探して読む」ことです。これは最悪です。これをやると、論文を選んだ動機に説得力がなくなり、かつ理解も不十分になりがちです(経験談)。
結局 ふだんの積み重ねが大事
まとめると結局、普段から定期的に論文をチェックしておくべしってことですね。もっともずっと同じ狭い分野の論文ばかりを読むのは、テンションが下がるので辞めた方が良いかも。
論文を探す方法は、「Google ScholarやPubMedで探す」「引用文献を辿っていく」「興味ある分野の雑誌を見る」「(検索ワードや雑誌ごとの)メールアラートを登録する」などいろいろありますので、試してみてください。
3. どうやって準備すべき?
大げさなパワーポイントを作成する必要はありません。発表がメインではなくて、論文の理解や批判が目的なので。論文に直接書き込みをしたコピーがあれば十分です。必要な場合は、補足資料があっても良いかも。
論文を選んだ動機・目的を伝える
論文紹介において、論文を選択した目的や動機を他のメンバーに示すことは大事です。
その理由はまず、他のメンバーに「どういう姿勢で論文紹介を聞けば良いか」判断してもらうためです。難しい論文を、目的も分からず読まされるのはさすがに大変ですからね。
そして二つ目の理由は、発表者により良いフィードバックがあるかもしれないからです。発表者の目的(=論文から得たい情報)が分かっていれば、聞いている方も「こういう風に読めば良いよ」「もっと良い論文あるよ」という助言ができます。もし万が一論文の内容が十分に理解できていなくても、論文を選んだ目的・動機がメンバーに伝わってさえいればなんとかなるかもしれません。「正しい」論文が選べていれば論文紹介の準備の7割はできたようなものと書いたのは、こういう理由ですね。
4. どのように発表を聞くべき?
これは「…すべき」という話ではなくて、むしろお願いでしょうか。僕が言いたいことは一つです。みんな質問しよう! 僕自身が修士の頃は質問をほぼしてなかったので、人に質問をしろと言うのは正直心苦しいのですが…。
質問をしないで良い理由は、考えれば山ほど出てきます。面倒だし、意味不明な質問してたら恥ずかしいし、そもそも背景知識がないから何が分からないかも分からないし…、という感じで。
でもそういうネガティブな理由に付き合っていても仕方ないので、ここでは論文紹介において質問をすることのメリットをあげてみましょう。
・他人の発表を真剣・批判的に聞ける
漫然と聞いているのと「質問をしなければ」と思って聞いているのでは、発表を聞く真剣さは変わってきます。
・一人が疑問に思っていることはみんな思ってる
「こんな初歩的なこと聞くと笑われるかも」と思って質問をしないのは大きな損失です。一人が疑問に思っていることは、他の多数のメンバーも同様に疑問に感じているでしょう。「自分に分からせない発表をする方が悪い」くらいに思ってどんどん質問した方が、周りの皆にとっても良いかもしれません。
・質問の練習になる
難しいテーマに対して質問をするスキルは、卒論や修論の後にも必要になってきます(たぶん)。Lab Meetingは人数も少ないので、質問の練習にはもってこいです。
・発表の空気が良くなる
やっぱりずっと沈黙は誰しもつらいでしょう。まず一つ質問することで他の人も発言しやすくなるはずです。ただ、厳しすぎる質問で逆に空気が悪くなることも?
5. 最後に:リンク
始めの方で書いたように、量をこなさないと難しいかもしれませんが、少しでも参考になればと思います。
思い付きで書いたので、おかしなところもあるはず(あとから追記するかも)。疑問やご指摘があれば、教えて頂けると幸いです。
最後にいくつか関係のありそうなウェブページのリンクを貼っておきます。良ければ、参考にしてみてください。
卒論生用に作られたというスライド。論文の読み方について説明されています。
鬼軍曹の過去のお話。論文セミナーってこんな感じでした。 - 神経科学者のおと
論文紹介の経験談。論文を理解できていない発表者はやり直しをさせられたとか…。
論文紹介は習うより慣れろ。量をこなすと質に転化する瞬間がやってくる。 - 武蔵野日記
論文紹介をするためには、普段の蓄積が大事だという話。
K. HIKI