論文引用・共著関係から辿る東大都市工の歴史 ~Research history of our department~

こんにちは、日置です。

最近、グラフ理論とそれを用いたネットワーク分析に興味を持ってます。遊びで、都市工学科から公表された学術論文の引用・共著関係を対象に、ネットワーク分析をおこなってみました。

これが意外と、都市工での研究の歴史を知るのに適した良い分析結果かもしれません。

In this article, the bibliometric networks of scientific publications by researchers in our department (Urban Engineering, Univ. Tokyo) were analyzed and visualized. This is just my practice.

 

ネットワーク分析って何?という話はとりあえず置いといて、いきなり本題に入っていきましょう!

 

もくじ

1. 対象データ・手法

2. 結果その①:引用-被引用関係

3. 結果その②:共著関係

4. 結果その③:キーワード

5. 補足

 

 

 

1. 対象データ・手法

今回は、大垣眞一郎・滝沢智・花木啓祐・古米弘明・味埜俊・山本和夫(敬称略、五十音順)の6先生のいずれかが著者に入っている論文496本の情報をWeb of Scienceから取得しました。同姓同名の別著者がいる場合は、手作業で除外しました(この作業が一番面倒)。

Bibliometric information (such as title, authors , year and citation) on publications by Prof. Furumai, Prof. Hanaki, Prof. Mino, Prof. Ohgaki, Prof. Takizawa, Prof. Yamamoto  was retrieved from Web of Science. 

 

この記事のタイトルに東大都市工と書きましたが、もうお分かりのように都市工の環境系のみ対象にしています。計画系お目当ての方、ごめんなさい。

なぜこの人選なのか、なぜあの先生が入ってないんだ、とツッコミはあるかとは思いますが、なにとぞお許しを…。私の独断です。一応、長く都市工で論文を出されている先生方を選んだつもりです。都市工所属の期間が短い方を対象にすると別の所属時の論文が入ってしまって、都市工の歴史を探るという今回の趣旨からずれてしまうので。あと、都市工設立時の文献は英語論文が主流じゃないっぽいので、英語論文がこの分野でも主流になってから(1980年以降?)の情報を対象にしたという事情もあります。

You may ask why I selected the above 6 professors. I think their publications represent well all the scientific papers in English published from our department. 

 

肝心のネットワーク分析手法ですが、CitNetExplorerとVOSViewerを用いました。どちらも論文情報のネットワーク関係をおこなう専用のフリーソフトです。詳しくはググってください。

I used free software CiteNetExplorer and VOSViewer.

 

 

2. 結果その①:引用-被引用関係

さっそく結果を見てみましょう。

まずは全496論文から100論文を示します。丸一つ一つが論文を示しており、その中の文字は第一著者の名前です。丸の色は、各論文が属するクラスターを示しています(この場合、全9クラスター)。縦軸は出版年で、下の行くほど新しくなっています。

You can see the citaton networks of all 496 papers in the figure below. Each circle represents a paper, and a name inside each circle indicate the first author.

 

f:id:YamamotoLab:20170916170459p:plain

  ▲Citation network of all 496 papers. 

 

これでは分かりにくいので、各クラスターごとに詳しく見てみましょう。まずは、論文数が一番多かった下のクラスターです。

 

f:id:YamamotoLab:20170916170617p:plain

  ▲Citation network in cluster 1: virus research. 

 

ウイルス関係クラスターですね。中心人物は大垣先生、片山先生でしょうか。中でも良く引用されている論文がKatayamaら(2002)です。海水中ウイルスの濃縮法を確立した論文ということで、その手法が後の論文に多く引用されているようです。図の左上部分で被引用の多い論文はKetratanakul and Ohgaki (1989)で、これは下水処理場内での大腸菌ファージの挙動を調べた研究みたいです(たぶん)。

大垣先生・片山先生が中心ではないグループでも、山本研(左側)・滝沢研(右側)の論文がこのクラスター内に含まれている、あるいはこのクラスターの論文を引用していますね。

 

※各論文に関するコメントは、アブスト・タイトルのみを読んだ私の感想なのであまりあてにしないでください。もし間違っていたらご指摘いただけると幸いです。

 

 

f:id:YamamotoLab:20170916170730p:plain

  ▲Citation network in cluster 2: biological phosphorus removal in activated sludge system. 

 

次は味埜先生、佐藤先生中心のクラスターです。生物学的リン除去に関する論文がメインです。2000年代頃からは、リン除去以外の現象に微生物学的な手法を応用した研究も見られますね。生物学的リン除去についての総説論文Minoら(1998)を、このクラスターの研究を理解するための代表論文としてあげておきます。ちなみに、花木先生がこの総説についての解説記事を"the Mino Model"の経緯などを交えてWater Researchにかかれています(2006, Vol.40, 17: 3147-3148)。

 

f:id:YamamotoLab:20170916171005p:plain

  ▲Citation network in cluster 3: Urban runoff pollution 

 

都市型排水(雨天時の路面排水など)による水環境汚染研究のクラスターです。2000年以降にできた比較的若いクラスター。中心は古米先生、中島先生、村上先生でしょうか。村上先生が滝沢研に在籍されていた影響か、滝沢研との関連が見られます(図の左側)。また、ウイルスクラスタとのつながりも。ちなみに、現在の山本-中島研での研究も一部はこのクラスターに入るでしょう。クラスターの代表論文として、路面排水中のSS(suspended solid)の粒径分布や金属含量を調べたFurumai(2002)や雨水浸透桝内での金属の挙動を模擬実験により調べたMurakamiら(2008)あたりを挙げておきます。

 

f:id:YamamotoLab:20170916171218p:plain

  ▲Citation network in cluster 4 

f:id:YamamotoLab:20170916171224p:plain

  ▲Citation network in cluster 5: Membrane Bioreactor 

 

クラスターの45はまとめて紹介します。どちらも、中空糸膜をエアレーションタンクに直接浸漬するMBR(Membrane Bioreactor; 膜分離活性汚泥法を開発したYamamotoら(1989)を端緒とするクラスターですね。この論文、Google Scholarでは被引用数が680を超えてます(2017年9月時点)。上記の味埜先生の総説(被引用数1076)を除けば今回対象とした文献でトップの被引用数でした。

クラスター内には、MBRに限らず膜処理排水処理に関する研究が含まれています。今も山本-中島研ではクラスター5に関連する研究がおこなわれていますね。また、クラスター5には都市工での研究というより山本先生のタイの大学の方との共同研究がいくつか入ってます(2010年代後半; 右下)。ちなみに2010年代の論文に多く引用されているXingら(2006)は、余剰汚泥発生ゼロを目指しMBRに傾斜板を導入した研究のようです。

 

f:id:YamamotoLab:20170916171232p:plain

  ▲Citation network in cluster 6: Drinking water treatment

 

このクラスターは浄水処理関連。大垣先生、滝沢先生が中心でしょうか。山本研の研究も入ってます。手法や対象が様々なので、これという代表論文は挙げづらいですが、粉末活性炭PAC関連のSeoら(1996)Kimら(2005)、ナノ粒子が膜ファウリングに与える影響を調べた Lohwacharinら(2009)、配水中の細菌増殖とリン濃度の関係を調べたSathasivanら(1997)などの論文があります。

 

f:id:YamamotoLab:20170916171247p:plain

  ▲Citation network in cluster 7: Water cyle 

 

このクラスターも色々入ってます。古米先生、栗栖太先生、春日先生が関わっている研究メインです。Furumai (2008) サステイナブルな水利用に向けて東京での雨水利用・再生水利用を論じた総説で、そこから伸びている論文は再生水の微生物増殖やその基質となる有機物を調べた研究が多いですね。他には湖や河川に含まれる有機物を調べた研究がクラスターに含まれています。 

 

f:id:YamamotoLab:20170916171258p:plain

 ▲Citation network in cluster 8: UV disinfection

 

紫外線照射による水処理のクラスターです。大垣先生、小熊先生が中心です。Kamiko and Ohgaki (1989) がよく引用されています。ウイルスのクラスタとの関連も見られますね。

 

f:id:YamamotoLab:20170917105347p:plain

 ▲Citation network in cluster 9: Nitrogen cycle

 

最後のクラスターです。花木先生、松尾先生中心。硝化、脱窒など窒素循環の研究メインです。

 

 

クラスターの形成は、当然ながら論文の選択にかなり依存してます。もう少しでクラスターができそうだったグループもありました。例えば、ヒートアイランド関係(左)とかベンゼン分解菌関係(右)など。少し論文データの選択が変われば、クラスタリング結果は変わっていたかもしれません。

 f:id:YamamotoLab:20170918092756p:plainf:id:YamamotoLab:20170917113956p:plain

  

 

 

 

3. 結果その②:共著関係

次は、論文の共著関係のネットワーク分析をおこないました。

f:id:YamamotoLab:20170917132809p:plain

 ▲Co-author network in our department

 

論文の共著者同士を結んでいます。円の大きさは、今回対象にした論文の数を表しています。松尾先生と花木先生・味埜先生のラインや、旧大垣研(大垣先生・滝沢先生・片山先生・小熊先生)などが表現されていて面白い!研究室の垣根がない都市工の特徴がよく出ていると思います。

 

 

4. 結果その③:キーワード

次は、論文のアブストラクトからキーワードを抽出して、その共起関係を図示してみました。

f:id:YamamotoLab:20170917141456p:plain

 ▲Keyword co-occurence network

 

ちょっと複雑で分かりにくいですが、真ん中上あたりから反時計回りにどういうグループがあるか見てみましょう。

まずのグループ。Activated sludgeの文字が大きく見えるように、活性汚泥など生物学的な処理、特に栄養塩除去に関するキーワードが主です。隣には同じくactivated-sludgeやメタン産生などをキーワードに持つ嫌気性細菌グループと、脱窒や硝化細菌のグループがあります。上部に飛び出ているのが、ベンゼンや内分泌かく乱物質の微生物分解に関するグループ。少し下に行くとやはり微生物を扱っているが膜処理もプラスされたMBR排水処理のグループ。その右隣には膜を扱ってはいるものの、浄水処理を主な対象にしているグループ。さらにその隣には紫外線照射に関するグループに、再生水・水循環の在り方に関するグループ。これらから若干離れて見えるのが、腸管系ウイルス・ノロウイルスなどをキーワードに持つウイルスグループと(上記のクラスター1)、高速道路排水や堆積物・地下水をキーワードに持つ水環境グループです(上記のクラスター3)。2つのグループに挟まれているのが、雨水・CSOなどのキーワードを持つグループです。図からは判断しづらいですが…。

上述の引用-被引用関係のクラスター分析結果と大まかに一致する分類ができてる気がします。

 

次に、同じ図を視点を変えて見てみましょう。

f:id:YamamotoLab:20170917145012p:plain

 ▲Keyword co-occurence network. Color indicates averaged publication year. 

 

キーワードの出現する年代によって色を変えています。青系の色ほど古く、赤系ほど新しいキーワードです。

上述した栄養塩除去に関するキーワードが(図左上)、2000年代からあまり使われていないことが分かると思います。対して右上の水環境グループでは全体的に赤っぽい色をしていることから、(少なくとも都市工では)新しく出現してきた研究分野だということが伺えます。下水・上水を扱う衛生工学からより一般的な環境工学への変化がネットワーク分析から見られました。

 

 

 

5. 補足

いや~長かったです。軽い気持ちで始めたら、なかなか終わりませんでした。でも単純に面白いので、「水環境学会誌」や「Water Research」を対象にして水環境学会誌に投稿しても良いかも。

最後にちょっと注意点です。

  • 今回対象とした文献に日本語論文は入れてません。含めていたらまた結果は変わると思います。

  • 英語論文でもWeb of Scienceに登録されてないものもあります。

  • 別に専攻内で論文が引用されているから良い研究だとか、そういうことを言おうとしているわけではないです(もちろんそれが悪いとも言ってません)。

  • データ解析系の研究がまとまりを作っていなかったのは、都市工の現状からすると意外でした。単純にデータの取り方の問題か、データ解析系の歴史が浅いからか、日本語論文が多いのか、実験系のように実験設備を共有しないから論文テーマも引き継がれていきにくいのか、実は実験系が不適切に論文を引用しすぎなのか(!?)。誰か検討してみてください。

  • こういう分析ができるのは、研究室間での仲が良い都市工ならではかも。

  • 引用ネットワーク図は、あくまで都市工から出た文献を基にした引用-被引用関係を示しています。なので、この記事内で被引用数が多いように見えても、Web of ScienceやGoogle Scholarの全論文で見たら被引用数は多くない場合はあります。もちろんその逆も。

  • 被引用数は古い論文ほど多くなる。今回の記事は全体的に最新の情報は反映されてません。

 

(追記 2017.09.29)

データ解析系の研究の歴史が上記の分析ではいまいち伝わらないので、さらに補足です。

旧・環境システム研究室と環境資源管理研究室から出た論文のタイトル・アブストラクト情報からキーワードの共起表現解析をおこないました。

f:id:YamamotoLab:20170918095550p:plain

 ▲Keyword co-occurence network of publications in Env Systems Lab &  Urban Resource Manage Lab 

 

右側から時計回りに見ていきます。赤色がおそらく嫌気処理、水色が窒素循環に関するグループです。その下が都市部の熱に関する研究。青色と水色が、温室効果ガス・亜酸化窒素・脱窒というキーワードでつながっているのが面白いですね。そして左の黄色が廃棄物やライフサイクルアセスメントなど環境負荷に関するグループ。黄色と青の間にあるのが、階層分析法などのキーワードを持つ意思決定に関するグループ。最後に、perceptionやperson、attitudeなどをキーワードに持つ環境配慮行動に関する認知心理学的研究でしょうか。

 

f:id:YamamotoLab:20170919112758p:plain

キーワードの出現年代を可視化してみると、微生物の研究から気候変動やヒートアイランドの研究に移り、ライフサイクルアセスメントや環境配慮行動に関する研究へ発展していったことが分かります。

(追記終わり)

 

以上です。

ネットワーク分析が面白そうだなと思った人がいたら、ぜひ一緒に勉強しましょう!

 

K. HIKI