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Our work was accepted by Chemosphere!

論文がChemosphereにアクセプトされました!

Kyoshiro Hiki, Fumiyuki Nakajima and Tomohiro Tobino: Causes of highway road dust toxicity to an estuarine amphipod: Evaluating the effects of nicotine, Chemosphere, in press. [DOI←Link] 

 

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●何についての論文?

ざっくり言うと、「道路表面にある塵は色んな有害物質を含んでいて、雨によって流されて底生生物に悪影響を及ぼす恐れがある。塵に含まれる金属類やニコチンに着目し、悪影響を生じさせる原因物質を突き止めようとした(けど結局良く分からなかった)。」という論文です。

This paper is about the toxicity of road dust deposited on road surface to a benthic organisms. In this paper, we analyzed metals and nicotine as causative toxicants in road dust.  

 

もうちょっと詳しく背景を書いてみます。

道路表面には、自動車の排気ガスや建築活動、舗装などから発生する塵など(road dust, 道路塵埃)がたまっています。これらの塵は、金属類や多環芳香族炭化水素など高濃度の曝露で有害となりうる化学物質を多く含んでいることが知られています。

道路にたまっている塵の一部は、雨によって流されて、河や海の底に蓄積します。すると、河や海の底に生息している底生生物は、塵に含まれる有害物質に曝露されます。結果、底生生物は成長や繁殖が阻害されるとか、あるいは死亡してしまうとか、良からぬ影響を受けてしまうのではないかと、懸念されています。

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「(上に書いた)金属類や多環芳香族多環水素は悪者なんやで~」「塵や塵を含む排水にこんだけ含まれとるで~」みたいな論調の論文や報告は数多く見られます。しかし、実際に生物を用いて、これらの物質が環境試料(塵や塵を含む排水など)においてどれだけ有害なのかを評価した研究はそう多くはありません。

そこで私たちのグループでは、「実際どれだけ有害やねん」「有害である原因はホンマに金属類なんか?」ということで*1、道路表面の塵を集め、それをカイミジンコヨコエビといった底生生物に曝露させて、塵に含まれるどのような物質が毒性影響を生じさせているのかを調べる研究をおこなってきました(例えばWatanabe et al., 2013; Khanal et al., 2015)。今回の論文も、その流れの中にあります。

どのような手法を用いたか、結局何が分かったか、などのさらに詳しい説明は、ぜひ論文をどうぞ!

 

今年9月におこなった学会発表の内容が、今回の論文と重なる部分もあるので、その口頭発表のスライド(下)を見てもらえると、今回の論文の内容がかなり分かると思います。

Here is a slide for an oral presentation in the domestic conference held in Ehime University. The contents of this slide were similar to that of the paper.  

 

 

 

 

●ひとりQ&A

論文には書けなかったけれど、学会発表や査読で突っ込まれがちな点を補足しておきます。

Q1.

汽水産の生物を使ってるけど、道路塵埃は汽水域まで流れ着くの?

A1.

多くの大都市は沿岸域に立地しているので、道路塵埃が汽水域に排出されることは珍しくないはずです。例えば東京では、首都高が沿岸域の水上にかかっています。Google mapでご確認ください。また河川であっても、例えば隅田川の下流では塩分が2%まで上昇することもあります。

 

Q2.

道路塵埃は、実際の環境では泥によって希釈されるから、生物に影響はないのでは?

A2.

まず実際の底質環境における道路塵埃の割合を考えてみましょう。ベンゾチアゾール類をマーカーに用いたKumata et al. (2002, EST) によると、底質粒子の0.8~6.8%は道路塵埃由来と推定できるそうです。塵埃の割合は15.5% w/wにも達するという報告もあります*2(Wik and Dave, 2009,Environ. Pollut.)。

一方、今回の論文で求めた道路塵埃のLC20(Lethal Concentration 20)は最大で4.7%でした。LC20は試験個体のうち20%が死亡する濃度を示してます。100匹で試験した際、20匹が死亡する濃度ですね。この影響のレベルにどれくらい意味があるのか、はちょっと簡単に答えを出せないので、「影響がないわけではなさそうだ」という玉虫色の官僚的答弁で逃げたいと思います。

とにかくLC20値である4.7%は、先ほど示した環境中濃度6.8%よりも低いです。つまり今回の実験結果においては、「実際に生じうる濃度の道路塵埃汚染によってヨコエビの致死率に影響が出た」 わけです。

ただ、雨によって流出する過程での有害物質の変化を考慮してないじゃないか、とか道路塵埃を希釈するために石英砂を使っているので泥分が多い環境での影響は模擬できてないぞ、とか言われると全くその通りです。今回の結果は、毒性が大きくなるような条件で得られたものかもしれません。

 

Q3.

タバコ吸い殻由来のニコチンなんて、局所的な現象では? 普遍的なものではないでしょ。

A3.

確かに全ての道路にタバコの吸い殻が一定量落ちている、なんてことはないでしょう。最近は禁煙区域も多いですし。

ただ、雨が降った時は路面排水中のニコチン濃度が高くなる現象は、いくつか報告例があることだけ示しておきたいと思います。例えばアメリカ(Benotti and Brownawell, 2007)やイタリア(Senta et al., 2015)です。

 

 

「で、何が分かったの?」と言われると正直ぱっとしない論文ですが、論文を仕上げる過程では、有害物質のbioavailabilityやSediment TIEの考え方、パルス曝露などについて、かなり勉強できました。結構楽しかったです。論文を見てくれた査読者(計10人ぐらい)、アドバイスを下さった方々に感謝です!

*1:だいぶ簡略化してます…。

*2:ただ、こちらの値よりKumata et al., 2002の値の方が信頼できそうです。